「エベレスト」と聞くとたいていの人は、宇宙工学に基づく最新鋭の防寒具と登攀用具、ピッケルやアイゼン等に身を包み、凍てついた氷の上を何日も歩いて、選ばれたものだけがはるばる到達できる場所、というイメージをお持ちでしょう。もちろんそれもエベレスト。
ですが、ネパールならもっと簡単にエベレストに逢いに行ける方法をご提供できます。
「とにかく時間がない」というあなたには、カトマンズの空港からひとっ飛びでエベレストの真正面まで連れて行ってくれる「マウンテンフライト」はいかがでしょうか。これほど手っ取り早く簡単に、世界最高峰の鼻先に迫ることができる方法もないでしょう。何せ到着日に予約を入れ、翌日早起きして空港に行くだけ。寒さに耐え、高山病を心配しながら何日も歩くことを考えれば、少しの早起きでエベレスト南壁や山頂付近を触れるほど近くに見られるこの方法は、ネパールでしかできない究極のエベレストとのデート方法といえるでしょう。
「もう少しゆっくり眺望を楽しみたい」という方には、ナガルコット(Nagarkot)やデュリケル(Dhulikhel)でのマウンテンビューステイも選択肢。マウンテンフライトほどの迫力あるエベレストとは言えませんが、天気に恵まれれば、ネパール北の国境にずらりと顔をそろえるヒマラヤの山嶺を一日中楽しむことができます。特に未明から朝焼けを受けはじめて白く紅く輝く銀嶺や、日没前後の言葉にし難い山と空の天然色彩のコントラストなどは、たっぷりと時間をかけて味わう価値があります。この二カ所はカトマンズからもほど近く、よりスケールの大きな景色を楽しめる展望台も、お泊まりの宿から歩いて数十分の距離にあります。
「時間をやりくりしてでも、最高峰は自分の足で見に行くのが王道だ」というトレッカーには、書き切れないほどのオプションがあります。一番短い日程であれば、ルクラ(Lukla)まで飛んだあと、順応のために一泊し、次の日にナムチェバザール(Namche Bazar)まで歩く方法で、この日は途中のジョルサーレ(Jorsale)から、ローチェ峰(Lhotse)とヌプチェ峰(Nuptse)をつなぐ雪尾根の向こうにエベレストの頂きを拝むことができます。
ナムチェバザールで一泊したら、翌日は周辺の高みに登ってみましょう。一番のおすすめはナムチェの一つ先、シャンボチェの丘の景観に見事に溶け込んで建つ、エベレスト・ビュー・ホテル(3,880m)へのショートトレックです。ホテルのテラスからはエベレストの頂きに加え、クンブー(Khumbu)周辺の高峰群をすべて見渡しながら、カトマンズのスターホテルに勝るとも劣らない食事やお茶を楽しむことができます。50年前に日本人が建設したこのホテルでは、簡単な和食メニューを楽しむこともできます。世界でただひとつの景観を味わったら、ナムチェに戻って一泊することになります。翌日ルクラまで降りてさらに一泊、その翌日のフライトでカトマンズへ戻る日程は往復5日となりますが、高山病対策機器も完備されているエベレスト・ビュー・ホテルに一泊して、夕焼け朝焼けの山姿をフルタイムで満喫するのも「一生心にのこる旅」になること請け合いです。
「ベースキャンプまで行かなきゃ、エベレストを見たことにはならないでしょ」という強者トレッカーには、まず12~16日の休暇が必要です。高度順化の出来ている地元のシェルパであれば、ルクラの空港からベースキャンプ往復はだいたい5~7日の行程ですが、世界最高地点での急性高山病は死に到る症状であることを考えると、これくらいの慎重な日程計画が肝要です(実際に行ってみたら、この正しさがおわかり頂けると思います)。
エベレストベースキャンプトレッキングはカトマンズからルクラへのフライトに始まり、ナムチェバザールから奥へ奥へと、クンブー氷河(Khumbu Glacier)沿いにゴラクシェプ(GorakShep)、その先のベースキャンプ(Base Camp)へと登っていく行程です。元気があるなら、カラパタール(Kala Pathar)まで登ってみると良いでしょう。特に写真好きの方々であれば、ここから眼前に広がる地上最高点の景観はまさに「一生こころに残る」眺めです。エベレスト峰のみならず、ロー・ラ(Lho La、6,036m)、ヌプツェ(Nuptse、7,863m)、チャングツェ(Changtse、7,550m)、リングレン(Lingren、6,741m)、クンブチェ(Khumbutse、6,636m)等の眼前の山、その向こうに見えるアマダブラム(AmaDablam、6,856m)、カンテガ(Kangtega、6,635m)等の高峰群は、これまで見たこともない被写体になると同時に、写真には収まりきれないスナップを脳裏にやきつけてくれることでしょう。